遺品整理という言葉が現実のものとなったのは、昨年の秋に母を亡くしてからのことでした。85歳で老衰により静かに息を引き取った母が残したのは、40年間住み続けた二階建ての家と、そこに蓄積された膨大な物たちでした。最初はどこから手をつけていいのか全く分からず、途方に暮れていました。
四十九日の法要が終わった後、兄弟3人で本格的な遺品整理に取りかかりました。母は物を大切にする人で、何でも取っておく性格だったため、家の中は想像以上に物で溢れていました。着物だけでも20着以上、食器類は普通の家庭の3倍はありそうでした。押し入れの奥からは私たちの子供時代の写真や通知表まで出てきて、驚きました。
遺品整理の作業は想像以上に体力と精神力を消耗するものでした。一つ一つの物に母の思い出が詰まっていて、捨てるべきかどうか判断に迷うことの連続でした。特に困ったのは古い家電製品や家具でした。まだ使えるものもありましたが、現代の生活には合わないものも多く、処分方法を調べるのに時間がかかりました。
転機となったのは、遺品整理業者に相談したことでした。最初は業者に頼むことに抵抗がありましたが、友人の勧めで見積もりを依頼しました。担当者の方は非常に丁寧で、私たちの気持ちに寄り添いながら作業を進めてくれました。貴重品や思い出の品は丁寧に仕分けしてくれ、不要なものは適切に処分してくれました。
作業中に見つかった母の日記には、私たち子供への愛情がたくさん綴られていました。また、へそくりとして貯めていたお金も見つかり、母の生活の知恵に改めて感心しました。遺品整理は単なる片付け作業ではなく、母の人生を振り返る貴重な時間でもありました。
最も心に残ったのは、母が大切にしていた写真アルバムでした。家族旅行の写真、孫たちの成長記録、友人たちとの思い出など、母の人生の軌跡が詰まっていました。これらの写真を見ながら、兄弟で母との思い出話に花を咲かせました。遺品整理を通して、久しぶりに家族の絆を深めることができました。
作業が完了するまでに2ヶ月かかりましたが、最後は清々しい気持ちになりました。母の大切にしていた着物は娘に受け継ぎ、食器の一部は兄弟で分けました。思い出の写真は丁寧にアルバムにまとめ直し、家族みんなで共有することにしました。
遺品整理は確かに大変な作業でしたが、母の生き方を改めて知ることができる貴重な体験でもありました。物への執着を手放し、本当に大切なものを見極める力の大切さを学びました。また、普段から身の回りを整理整頓し、家族に負担をかけないよう心がけたいと思うようになりました。